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二本の「富美子の足」


 漫画や小説などの創作物は、作者の手を離れた瞬間から作者の物ではなくなるのだと思う。
もちろん著作権の事を言っているのではない。 作品世界の話である。

 作者が意図したものとは全く違った受け取め方をしても、それは読者の自由であって、それこそ百人百様の解釈があり、百の物語が成り立つわけである。

 評論家に見当違いな事を論じられ「そんなふうに考えて書いたんじゃねーよ!」と否定してみてもしゃーないのだ。

矢吹丈が、完全燃焼したリングの上で、うっすらと微笑みを浮かべてやや首を垂れて座っているラストシーンを見て「あれは死んでいるのだ」と解釈するのも、「いやいや、あれは真っ白に燃え尽きて満足そうにしているだけだろう」と解釈するのも読者の自由なのである。

 江戸川乱歩の小説は、映像化した途端に陳腐な物に成り下がる。
彼の文章は、あたかも壮大なマジックでも見せられているかのように、読者のイマジネーションを膨らませるのが巧みなのだ。

パノラマ島鏡地獄も、視覚化された瞬間に、種明かしされたマジックのように輝きを失ってしまう。

 よく漫画の実写化が失敗するのも、舞台設定だったりキャスティングだったりが、ファンが思い描いているイメージとかけ離れているからに他ならない。 そこには百人百様の世界が広がっているわけだから、全てのファンを納得させられる作品を作る事など到底不可能なのである。

 原作ファンはこれらをパラレルワールドだと思って納得するか、あるいは無視を決め込むかしかないのではなかろうか。

 今春テレビドラマ化される、田亀源五郎先生の「弟の夫」のメインビジュアルが解禁され、その再現度の高さが賞賛されいるが、内容に関しては蓋を開けてみるまでは誰にもわからない。

 昨年末、 漫画タウンに連載中の「鎌倉ものがたり」が実写化された際、作者である西岸良平氏が「原作者にとって何よりうれしいのは原作の世界観をとても大切にしていただけた、ということです」と語っていたのを見て、確かに“世界観”て言うのは大事だよなぁと思った。

 時代設定やストーリー展開が多少変わったとしても、演じる俳優のイメージが違っていたとしても、たとえ原作にないキャラクターが登場したとしても、作品の世界観さえ失われていなければ、なんとなく「これでいいのだ!」と納得してしまうのは僕だけだろうか?

 現在公開されている谷崎潤一郎原案のトリュビュート映画「富美子の足」の予告編と、8年前にテレビドラマ化されたBUNGO「富美子の足」の二本を比較してそんな事を感じた。

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 ドラマの方で元・芸者の富美子役を演じた加藤ローサは、純日本女性といったイメージではないけれども、それでもこのドラマは谷崎の世界観をよく再現していたように思う。

 いや、谷崎が「痴人の愛」ナオミ「顔だちなども何処か西洋人臭く、そうして大そう悧巧そうに見え…」などと表現している事から、プロデューサーが谷崎作品にはむしろ日本人離れした顔立ちの女性の方がしっくりくるかもしれないと考えて、加藤を起用した可能性もある。

 同じ原作を元に、どちらも女性の美しい足に対する偏愛を描いているが、かたや死の床に伏した老人の静かなる狂気であり、もう一方は予告編を見た限りではあるが、登場人物全員のあからさまな狂気を感じる。

 また、原作ではFoot-Fetichismとなっていたはずだが、ウエダアツシ監督が撮った映画の方はどうもLeg(脚)の方に比重があるように思える。

 この二作品のどちらがより谷崎潤一郎の世界観に近いのか、一部の谷崎作品しか読んでおらず、トリュビュート映画も未見の僕には判断する事は難しい。

 また、そうする事さえも、あまり意味を持たない事だと思えるのだ。

 
 コミティアに女王様漢字ドリルを出展し終えたばかりのふうこさんから、次回製作の同人誌への参加のお誘いを受けた。

 「谷崎小説のパロ漫画、一緒に書いて同じ本にまとめてコミケに出しませんか?

 谷崎アンソロジーって企画があったじゃないですか?
 あれの更なるパクリを二人でやれば、ネットSM界で話題奪えますよ!」


 谷崎アンソロジーに描いた有名作家陣より、本物のSM愛好家が描いたものの方が受けるのでは?という発想のようである。

 言われてみれば「富美子の足」も、本物の足フェチの監督が製作した方がより説得力がある作品が撮れるような気はする。

 谷崎作品を大して読んでもいないし、理解もしていない僕がパロディなんかやったら、それこそ大谷崎のファンに何を言われるかわからんとは思うけれど、10本の指に満たない読者の目ならなんとか誤魔化せそうな気がしなくもなくもない。

 「ネットSM界の話題沸騰!!」と書いた帯でも付けたら、一部で「嗤い沸騰!!」くらいにはなるかもしれない。


 ちょっとはやる気になってみたものの、やっぱり止めとこうかなと思ったりもする。

 仕事の多忙さもあるので実現するかどうかは流動的だけれども、前述したように今から“作品世界の解釈は百人百様である”と予防線を張っておけば、どんないい加減な作品になっても許されるかもカモシカのお尻(>_<)

 今回の記事は、そんな甘い考えを持って書いたものなのであります。

 どうでもいいか、そんな事。


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新作映画「富美子の足」

初めまして!

映画『富美子の足』、観ました。
Mugiさんも是非ご覧ください。
谷崎の世界観を真っ向から否定する、実にみごとな「反・谷崎映画」ですから。

原作は足フェチがテーマですが、映画は主に脚フェチを扱っています。
でも、まあ、それは大したことではありません。

問題は、監督が、
「自分の中に足フェチに通ずる部分を探すも見つからず、友人の脚本家に協力を仰ぎ、共にシナリオを書きました」
と公言する人だということ。

女性の脚の美しさに惚れ惚れと惹かれる…という感性も体験もなく映画を作ったわけで、自分が感動しないもので観客を感動させられるわけがない。

だから主演女優の脚がちっとも美しく表現されてないのです。
主演の片山智美さんが気の毒でなりません。

もっと大きな問題は、谷崎を谷崎たらしめている「美への拝跪」という世界観が全く欠落していることです。

映画には、捨てられアイスキャンディーの棒にアリが群がるイメージショットが度々出てきますが、男たちはそれと同じように、富美子の脚に群がり、その美を貪るんです。まるで富美子の脚がモノであるかのように。

そして、さらに大きな問題は、Mugiさんが見抜かれたように、監督は「狂気」を描きたかったようで、それはそれで成功してるんですが、それは、つまり、

「女の脚に惹かれる脚フェチ」や「エロ系フィギュア作家」や「M男」は
狂っている

ということを表現しているんですね。
これは、映画をご覧になれば、おわかりになるかと思います。

ノンケが谷崎作品を視覚化すると、どうしたって、こういう谷崎の価値観・世界観を真っ向から否定する作品になってしまうんでしょうね。

ですから、M男さん・S女様が創る谷崎の二次創作、すごく楽しみです。
是非実現させてくださいね。

今回の映画『富美子の足』は、創作のための素晴らしい反面教師作品として、ご覧になってはいかがでしょうか。

ひえ〜(>_<)

 おお! この馬山人さんのコメントに勝手にレスさせて頂きますが、何か問題ありますでしょうか(>_<)
 
 実はこの映画を、心密かにとても愉しみにしていて、記事は mugiさんに先を越された〜と思っていたところのタイミングで、早く観にいかねば〜と思っていた真っ最中だったのです。

 しかし、馬山人さんのこのコメントを拝見して、ショックでした。

 あまり先入観を持たず、いつものようにガッカリしてもいいから(普通、文芸作品が映画化されるとそうなる)、とにかく観に逝こう!ぐらいの気持ちでいたのですが、尊敬する馬さんのこのシビアなコメントを読むと、もう観にいかなくてもいいの鴨加茂日枝神社〜(>_<)と感じました。

 どうでもいいか、そんなコト・・・・



Re: 新作映画「富美子の足」

馬山人さん、どうも初めまして!
映画「富美子の足」に関する詳細なコメント有難うございます。

そうですか、この映画は観ておいたほうがいいですか?
田舎暮らしなもので、交通費諸々を含めると結構な出費になってしまうので、今回はスルーしようかと思っていたのですが…
(>_<)

映画の予告編には作品のエッセンスが凝縮されていると思いますので、M男性の視点から見てどんな印象に映る作品であるかはある程度想像がつきました。

谷崎文学の根底に流れるものはマゾヒズムだと思いますが、作品は我々マゾヒストに向けて書かれていたわけではないと思いますので、読者にも色々な受け取め方や考え方があるのでしょう。

以前出版された「谷崎万華鏡」も有名漫画家が様々な視点から谷崎作品を漫画化していましたが、原作の世界観を忠実に描いているものもあれば、ぶっ飛んだ作品もあって僕には興味深かったです。

ウエダアツシ監督のコメントに「谷崎が見た時に、めちゃくちゃ褒められるか、めちゃくちゃ怒られるかのどちらかならいいなと思って作りました」とあるので、谷崎ファンの酷評も覚悟の上だったのでしょうね(笑)

つげ義春氏の漫画もテレビや映画で映像化されていますが、やはり作品に思い入れのあるスタッフや俳優が関わったものの方が原作ファンを納得させるだけの力はあるように思います。

僕のマゾヒズムは、以前はどちらかと言えば肉体的受苦を求める傾向が強かったので、学生の頃に読んだ谷崎文学は淡すぎて物足りない印象でした。 それがご主人様と出会った5、6年位前から精神的な領域に拡がってきた過程で、改めて谷崎作品の魅力に惹かれるようになってきたのです。

ですから僕が大谷崎を漫画化するなんて100年早く、おこがましいにも程があるのですが、もし二次創作をやらせて頂く場合は女性美に対する執着や拝跪は欠かすことなく表現したいと思っています。

どういうものになるかは、現時点では何も決まっていませんし、冬コミに間に合うのかすら自信がありませんけど…

Re: ひえ〜(>_<)

谷崎トリビュート映画、あと二作品やるみたいですし、そちらを観に行かれてぜひマゾ花で記事にして下さい^_^
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mugi

Author:mugi
踏みつけられて、より強く丈夫に
育つムギの様でありなさいと
ご主人様が付けて下さった奴隷
名です。なんという素晴らしい
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しかも音の響きも可愛らしい。
ビールが大好物の僕にピッタリ!
とても気に入っています(*^o^*)
馬派(苦痛)・犬派(奉仕)・豚派
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せたオールラウンダーな変態を
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