我はマゾヒストなり
先日、“あまりにも天気が良かったので、全頭マスクやら一本鞭やら麻縄や手錠やら、口枷やボディハーネスやペニバンやら、持てるSM道具一式を自宅のブロック塀の上に並べて天日干しをしていたら、外出先から帰宅した母親に見つかってしまう”という夢を見ました。
恐るべき悪夢です‼︎(>_<)
母親が玄関の鍵をガチャガチャと開ける音で気づき、一瞬凍りつく。 顔面は蒼白。
思わず「ウワア、しまったぁ!!」と声にならない声を上げ、玄関隣の和室の窓から身を乗り出して、あたふたとそれらを家に取り込もうとするも時すでに遅し。 怒りとも哀しみともつかない複雑な表情でドアの前に佇む母親と、目が合ってしまいました。
気まずい空気が流れ、しばしの沈黙。
「……」
頭の中では、上手い言い訳はないものかと目まぐるしく考えを巡らせるも妙案浮かばず、「母さん…俺、打ち明けたい事があるんだけど…」と、カムアウトの覚悟を決めたその瞬間に目が覚めたのでした。
ご近所の目は一切気にしていないところが、いかにも夢らしいアバウトさではありますが、これほど「夢でよかったぁ…」と安堵した悪夢もそうそうありません。 しばらくは動悸が収まりませんでした。
夢に出てきた母親は、僕がまだ高校生位の頃の姿をしていました。 家も、その頃住んでいた旧宅の間取り。
その当時、僕は自分の部屋のライティングデスクの引き出しの奥に、参考書に紛らわせてSM雑誌を数冊隠し持っていました。 ある時、それを母親に見られたような形跡がある事に気づき、その事がずっと疑念として心の奥に引っかかっていたのです。
前回の記事を書くにあたって、古いSM誌の切り抜きを引っ張り出してきた際に、その忌わしい記憶が蘇ってきたので、もしかしたらそれが夢に表れたのかも知れません。
唯一の救いは、見られたと思われる雑誌が、“M男性の専門誌”ではなかった事。
女性の緊縛写真が載っているSM誌なら、ちょっと好奇心の強い思春期の男子なら持っていてもおかしくないかもしれない… そうだ、そうに違いない!と考える事で長年自分の気持ちを慰めてきたのです。
忘却の彼方へと葬り去ってしまいたい青春時代の残滓…
そう言えば…
僕の両親はとっくに他界しているのですが、その事を知っている、とある女王様からプレイ中に「お前の親が、その恥ずかしい姿を天国から見て愕然としているわよ」と言われ、こちらが愕然とした覚えがあります。
なんという嫌な言葉責め(>_<)
それ以来、プレイをしている際に時折、浮遊した母親の霊にじっと見られているような妄想が頭をかすめるようになりました。
「マゾほど素敵な性癖はない!!」などと言いつつも、マゾヒストである自分をどこかで強く恥じている矛盾。
僕はこれまで、ノーマルなSEXにおいて、勃起はしてもほとんど不能に近い状態である事に苦悩してきましたが、自己のマゾヒズムに関して悩んだりした事はありませんでした。
マゾヒストに産んでくれた親には感謝しているくらいですし、来世があるとしたら再びマゾヒストに生まれてご主人様と巡り会いたい。
しかし、そこまで思っていながらも、生まれ持った性癖を女王様以外の他人に打ち明けた事は一度たりともありませんし、自分がマゾヒストである事を人に知られる事をとても恐れているのです。
お尻をペンペンされてよがっている程度のマゾならまだしも、女性の排泄物を口にしたり、身体に焼印を入れられる事を切望しているような重度なマゾヒストは、到底世間に理解されるとは思えないからです。
そうした性癖を隠すことなく、顔出しでビデオ出演しているM男優さん達の事は心から尊敬しています。
だいぶ前になりますが、ハードゲイSM劇画で有名な田亀源五郎先生が「親にペンネームばれた」とtweetして話題になりました。
田亀先生は、過去に母親にゲイである事を打ち明けていながらも、それまで本気にされていなかったようです。
「あなたゲイなの?」 「そうだよ。前にそう言ったじゃん」 「あら…じゃあ一緒に暮らしている〇〇さんもそうで、そういう関係なの?」 「そうだよ」 「まあ、じゃあ籍とか入れるの?」 「いや、それが出来たら苦労しないんですけどwww」
田亀先生と母親との会話のやり取りがなんとも微笑ましい^ ^
喜国先生や乾先生の様に作品の内容でなんとなくMっぽい性癖をカムアウトして、それが世間に受け入れられているような状況もちょっとだけ羨ましい。
しかし、つくづく自分は有名人じゃなくてよかったなぁと思います。
どこから漏れるのか…野球選手の誰それがハードマゾだとか、俳優のあの人がスカトロマゾだとか、カリスマ歌手のあの人がとか、そんな風に世間に噂され、好奇の目に晒されようものならば心休まる時がありません。
しかしそれらはあくまでも噂の域を出ていないところが、社会的に排除されているであろうマゾヒストの立場を象徴しています。
LGBTをカミングアウトする有名人はいても、マゾヒストである事を公言する有名人は聞いた事がありません。
マゾヒストの人権団体や運動家も(おそらく…)存在しません。
ボンデージ姿の女王様達と犬のいでたちで4足歩行の奴隷達が、集団デモをしたらかなりのインパクトだとは思いますが、自分がそれに参加することはまずないでしょう。
僕だけではなく、大方のマゾヒスト諸氏がこれまで自己の性癖をひた隠して生きてきた事と思います。
昔のSMクラブは、受付時に客同士が鉢合わせしない様に最大限の配慮がなされていました。 狭い待合室をさらにカーテンや衝立で仕切ったり、受付時間に若干のタイムラグを設けたり…
ソープランドのように広い待合室で客同士が顔を合わせ、酒を飲みながら女性の接客を待つ様な光景はあり得ませんでした。 SMクラブでは客の秘密を最大限に保護する事が、店の信用にも繋がったのです。
女王様もできるだけM男の身体に傷痕を残さないように気遣って下さいました。
少しでも鞭痕が残ると早く消えるようにとオロナインを塗ってくれたり、バンドエイドを貼ってくれたりしたものです。
中 学 生の頃だったか、ワイドショーの身の上相談で、夫の身体に無数の鞭痕を発見した主婦からの相談を取り上げていたことがありました。 この番組をたまたま親と観ていた僕は、その場にいたたまれなくなってトイレに立ち、そのまま二階の自分の部屋に上がってしまいました。
その後、回答者がどのように答えたのかはわかりませんが、夫のM性癖の発覚は夫婦双方にとって不幸な出来事だったと思います。
僕は現在は一人暮らしですが、家族がいた頃は、増え続けるM雑誌やMビデオやプレイ道具の隠し場所に頭を悩ませ、四苦八苦していました。 外出先で「うっかり、あれを出しっぱなしにして来たのではないだろうか?」と不安に苛まれ、早々に帰宅して杞憂であった事に胸を撫で下ろした事も一度や二度ではありません。
SMクラブに行った日はその痕跡が残っていないか細心の注意を払い、傷跡が残っていた場合は、家族が寝静まった深夜に入浴したりしていました。
それでも、何かの拍子にうっかりポカをやらかす事はあります。
いつだったか、家の階段途中に、赤い蝋涙が絡みついた陰毛を発見した時は、冷や汗が出ました。 ご主人様から伺ったお話ですが、子供と入浴中に「パパ、おへそに赤いのついてる」と指摘され、慌ててごまかしたお客さんがいたそうです。
網タイツを穿いた女王様に長時間顔面騎乗をされ、顎にくっきりと網模様が着いてしまった時は、真夏にもかかわらずマスクをして過ごしました。
かように、マゾヒストである事を隠し通すために費やすエネルギーと心労は計り知れないものがあります。
クラーク・ケントが命懸けで、スーパーマンである正体を隠し通す苦労に匹敵するかもしれません。
なぜ犯罪を犯したわけでもないのに、こうも後ろめたい気持ちになるのだろう…
できる事ならば“世界の中心で『我はマゾヒストなり!!』と大声で叫びたい”
もし、それができたとしたならば、随分と気持ちも楽になるだろうと思います。
しかし、そう思う反面、この後ろめたさや背徳感こそがマゾヒズムの真髄であるとも考えるのです。
僕は、昨今のように、あまりにもオープンでファッション感覚のSMには馴染めません。
僕の中では、SMやフェティシズムはいまだにタブーやアンダーグラウンドのイメージが強いですし、そうあってほしい。
拷問は、明るい日差しが射す庭で行うよりも、カビ臭い地下の拷問部屋で行われる方がより似つかわしいと思うのです。
そろそろ平成の御代も終わりを告げようとしていますが、僕のマゾヒズムはそれよりもだいぶ長い歴史を刻んできました。
homerさんも“生前退位”を口にする今日この頃、まだ若干早いとは思いますが、僕もぼちぼちマゾヒストとしての終活を考える時期が近づいて来ているようです。
あまり使わなくなった道具類などは少しずつ処分し、手持ちのSMメディアもデータ化して、何かあれば一瞬で葬り去れるような状態にしておきたい。
自分は、親戚や友人達に生涯マゾヒストである事を隠し通し、墓場まで持っていくつもりではいますが、督助老人が建立した仏足石の墓のようにマゾヒストであった証を遺しておきたい気持ちもあるのです。
どうせ僕の墓など誰も参ってはくれないでしょうから、墓に鞭やハイヒールなどを模ったオブジェを置くのも素敵かも鴨川。
戒名は“好色院被虐隷従居士”とでもしましょうか。
両親やご先祖様には合わせる顔がないのであの世には行かず、ご主人様のお傍でいつまでも守護霊となって見守り続けたいと願っているのですが、何か問題ありましたでしょうか?