アルファインの一夜
すでに3ヶ月以上が経過してしまいましたが…
6月17日、久しぶりに六本木のSMホテル・アルファインに行ってきました。
ご主人様と最初に店外でお会いした時以来ですから、かれこれ四年ぶり位でしょうか。
六本木界隈にSMクラブ華やかなりし頃は、ホテル内に設置されたセキュリティーゆるゆるのレンタルロッカーまで借りて、最低でも月に2回は通っていましたが、5年間のブランク以降は全く足を運ばなくなっていました。
それでも僕はこのホテルの持つ圧倒的なB級感と、滑稽なまでにおどろおどろしい非日常感が大好きなのです。
国際色豊かな大都市の裏通りにひっそりと建つ、悪趣味な建物のアンバランスさは、SMの背徳感を増幅させてくれる。
健全でオシャレなファッションホテルも悪くはないけれど、やはりSMには退廃的なムードが似つかわしい。
初めてこのホテルの存在を知ったのは、小学 生の頃に親の目を盗んで観た、お色気番組のイレブンPMだったように記憶しています。 そう考えると、この魔窟のような建築物は、そろそろ築50年位にはなるのでしょうか? その強烈なインパクトは美芸会の存在と共に僕のマゾヒズムに多大な影響を与えてくれました。
7月は耐震補強工事の為に1ヶ月間休業したようですが、外観も設備も自然な感じで寂れてきていて、返ってリアルにダンジョンや拷問部屋の雰囲気を醸し出しています。
僕が初めてアルファインを利用したのは、当時六本木に開店したばかりのRというSMクラブのオーナーの指示でした。 ここはのちに老舗に成長した有名店ですが、当時のオーナーだった中年男性は、とにかく胡散臭い人物でした。
彼が某SM誌の読者欄に「この度“女王様の会”を発足させたので、奴隷を志願するM男性を募集します」というようなメッセージを載せて、僕はそれに応募したのでした。 早速返ってきた返信には、「奴隷としての適性があるかどうか、当会と提携しているSMクラブの女王様がたの入会審査を受けて頂きます」と書かれていました。
今思えばこの時点で気づくべきでしたが、世間知らずの若造だった僕は、女王様の個人奴隷になれるチャンスとばかり、審査代と称するプレイ料金2万円也を支払って入会を志願したのでした。
その際、審査会場に指定されたのがアルファインだったのです。
審査と言ってもその日の参加者は僕だけで、合否の結果を告げられる事もなく、その後もこの会からは一切連絡はありませんでした。 僕はオーナーが、開店したばかりのSMクラブRを軌道に乗せるために、架空の会をでっち上げて客寄せの手段に使ったのだと考えています。
この時、アルファインに派遣されてきた女王様はフィリピン人の女性でした。
片言の日本語による聞き取れない言葉責めだけでも相当萎えましたが、SMのスキルもにわか仕込みのお粗末なもので、頭数を揃えるために雇われたのが見え見えでした。
適性のない女王様に、奴隷の適性審査をされる僕って一体…(>_<)
その日、僕のマゾヒズムのスイッチはとうとう一度も入らず終いでした。
実はこのオーナーとはその後、もう一度だけ会う機会がありました。
初対面の時に、趣味で描いたFEMDOM画を5枚ほど持参して彼に見せていたのですが、その後「君の絵はマニアに売れると思うから是非サンプルを描いて欲しい」と依頼があったのです。 僕はオーナーの注文通りに、ふくよかな女性がM男性を責めているサンプル画を描いて、六本木の事務所まで持参しました。
その時、奴隷の会のその後の活動に関して尋ねてみましたが、曖昧な返事が返ってきただけでした。
僕はそれ以上問い詰めるのはやめました。
その時は確か2万円程の謝礼を貰い「絵が売れればちょっとした小遣い稼ぎになるかもしれないな…」と気を良くし、他の作品も彼に預けて帰りました。
しかし、オーナーからはその後、絵の依頼は一度もありませんでしたし、預けた画稿も返却されませんでした。
ところが、それからだいぶ経ったある時、僕は別のSMクラブの事務所で預けた絵のうちの一枚と再開する事になります。
絵は綺麗に額装されて、マンションの一室の廊下に飾られていました。
あのオーナーが、そのSMクラブのママの事を「あれは俺の女だよ」と言っていたのですが、彼女かどうかは別として、どうやら知り合いであった事だけは真実のようでした。
彼は僕が描いたFEMDOM画を、承諾も得ずに勝手にママに譲ったようでした。
アルファインでの最初の思い出はそんな苦いものでしたが、僕はこのホテルの雰囲気だけはすっかり気に入ってしまい、その後何度となく足を運んだものでした。
1人90分のコースで3人の女王様に入れ替わり立ち替わりプレイしてもらったり、一般のS女性5人を相手に3時間に渡る集団リンチまがいのプレイをしてもらったり、無茶なお金の使い方をした事もありました。
仕事を終えて夜間に利用する時は必ず宿泊しました。 プレイを終えた後、開放感に浸り、SMビデオを観ながら1人ベッドで飲む缶ビールの味は格別でした。 でも翌朝、非日常的空間を後にして、通勤の人々の群れとすれ違う事で、途端に詫びしい現実に引き戻されました。
アルファインは僕を初め、SMを愛する人達の心のオアシスだと思います。
さて、話がだいぶ脱線してしまいましたが、話題を6月17日の件に戻します。
その日、僕は、ご主人様に初めてオールナイトでご調教をして頂く為に、四年ぶりのアルファインを訪れたのでした。
薄暗い拷問部屋で、逆さ吊りにされて、意識が遠のくまで一本鞭で打ちすえられたい。 奴隷の餌や飲み水として、ご主人様の排泄物を全て賜りたい。 厳しいご調教を受けた後、檻の中に繋がれて、痛みに疼く自らの身体を抱きしめながら一夜を明かしたい。
そして何よりも、ご主人様のお側で、一晩同じ時を過ごしたい。
僕はご主人様の元で、奴隷として飼われるという、非日常体験を味わってみたかったのです。
そんな長年の夢が叶うのは、もしかしたら、この日が最初で最後のチャンスになるかもしれない。
僕はご主人様のご都合に合わせて仕事のスケジュールを調整し、体調を万全に整えてその日に臨みました。
アルファインは価格帯によって部屋の広さや設備の充実度が全く違います。
AランクからCランクまで分けるとしたら、Cランクは完全にビギナー向けで、一般のラブホとさして変わらない広さの室内に、簡素な拘束具が設置してあるだけです。 僕はこれまでAランクの部屋が塞がっていて、やむなくBランクの部屋を利用した事はありましたが、Cランクの部屋には一度も入った事がありませんでした。 わざわざアルファインまで赴くのならば、高額を支払ってでも広くて充実したAランクの部屋を利用したい。
ところが…
当日は土曜日だった事もあってか、僕が到着した21時過ぎにはすでに、檻のある部屋もAランクの部屋も全て塞がっていました。
宿泊のチェックインは22時からで、部屋を選べるのは21時45分頃からですが、その時点で空いていたBランクの部屋も残すところあと僅かだったのです。
受け付けの女性によると、その夜、Aランクの部屋に休憩で入ったカップルは2組。 ただし1組は入ったばかりで、もう1組も延長を繰り返していて、いつ退室するかは全く予想がつかないという事でした。
他のAランクの客は休憩で入った後、宿泊に切り替えたのでしょうか? お金持ちには敵いません(>_<)
僕はAランクの部屋の宿泊料金として、一泊35,000円の予算を用意していました。
広い部屋が空くのを待つか、それとも現状で一番いい部屋に入った方がいいのか… そうこう悩んでいるうちにも次々と変態カップル達が訪れます。 僕は追い立てられるように、Bランクの「奴隷市場」と言う部屋に入る事にしました。
この時、ご主人様はまだお友達と新宿でお食事中でした。
部屋に入ってからご主人様に連絡して事の経緯を伝えると、「せっかくムギの願望を叶える為の特別な日なのだから、広いお部屋が空くまで待ってみたら?」と仰います。
「私は朝まで寝ないで始発で帰るのでも大丈夫だから…」と優しいお心遣い。 ご主人様は当初、ご自分は寝起きが悪いので、調教は夜中のうちに全て終わらせてしまって、朝はゆっくり寝ていたいと仰っていたのです。
檻の中で寝るのが無理だとしても、せめてご主人様がお休みになられているベッドの下で拘束されて眠りたいというのが僕の願望でした。 しかし、一睡もされないでご帰宅されるとなると、昼間のご調教を深夜の時間帯にずらしただけという事になってしまいます。
どうしよう…ここはキャンセル料を支払ってでも部屋が空くのを待つべきか…
それともこの部屋で3時頃までご調教して頂いて、あとはチェックアウトまでごゆっくりとお休み頂くか…
かように悩むほど、AランクとBランクの部屋では大きな差があるのです。
一応受付に相談してみたところ、たとえ深夜まで待ってもいい結果に結びつくとは限らないと言われました。 確かにその通りです。 下手をすればもっとグレードの低い部屋になってしまう可能性さえあるのです。
僕は自分のツキの無さを呪いながら、Aランクの部屋を断念しました。
そうと決まれば気持ちを切り替えて、この部屋でご調教に集中する以外ありません。 どうでもいいような事に思えるかもしれませんが、マゾヒストは自己の妄想や願望に執拗なこだわりを見せる事があるのです。
この日、僕は、二間あるAランクの広い空間で、首輪を付けて引き回されたり、馬にされたり、檻の中で眠る事を夢想していたのです。 残念ながらその夢は潰えました。
午後10時半を回った頃、ご主人様がお出ましになられました。 凶々しい拷問部屋には似つかわしくない、ご主人様の清楚な美貌に加え、今夜は匂い立つような色香が特段映えてさらに眩く光り輝いて見えます。
ご主人様と出会って7年目を迎えましたが、考えてみれば、夜にご調教を受けさせて頂くのは初めての事でした。 いつもと違った印象を受けたのは、そのせいかもしれません。
いつだったか、ご主人様が 「ムギは私に地獄へ連れて行かれるのが大好きだよね」 と仰っていた事を思い出します。 そう、今宵、僕は死神ではなく、目の前の天使に地獄へといざなわれていくのです。
跪いてご挨拶を終えると、ご主人様のお手によって畜奴に相応しい姿へと堕として頂きます。 先端に尻尾の付いたアナルプラグをねじ込んで頂くだけで、僕のマゾヒズムのスイッチは全開となり、呼吸は荒く、目は虚ろになります。
その後、変形椅子に開脚状態で拘束され、1年半ぶりの剃毛をして頂きました。 ハサミで大雑把に切って頂いた後、安全カミソリで剃り上げて頂きます。
ハサミをお使いになられている際、お手元が狂われて、僕の陰嚢の皮膚を切ってしまったのはご愛嬌。 数日前に、ハサミを所持していた男性が銃刀法違反で逮捕されたというニュースを見て、刃渡り6.5センチの合法の物に買い替えたばかりなのです。切れ味も抜群だったのでしょう。 この男性は、警察官がハサミの柄から測った為の誤認逮捕だったようですが(>_<)
無毛状態になった僕の 下腹部には、かつて線香やタバコの火で刻んで頂いた、ご主人様のお名前が、はっきりと判読できる状態で残っていました。 風呂に浸かるとピンク色に浮かび上がってくるご主人様のお名前がなんとも愛おしいのです。
このお名前の焼印も久しぶりにメンテナンスを施して頂きました。火先が肌に触れる度に口から呻き声が漏れてしまいます。
少し時間が経つとご主人様のお名前の形にみるみると火脹れていきました。
ご主人様以外の女王様とプレイをしていた頃は、傷痕が残ると一刻も早く消えて欲しいと思ったものですが、今はもっともっと身体にご主人様の奴隷の証しが欲しいという願望がもたげてきます。
儀式が終わると、念願だった逆さ吊りに寄る鞭打ちや蝋燭責めが執り行われます。
蝋燭の炎の揺らめきが、ご主人様の慈愛に満ちた優しいお顔を歪め、妖しい魅力を惹き出してくれます。 照明を最大限にしてもなお仄暗い室内には、何か魔物が宿っているのかもしれません。
ご主人様は奴隷が苦しむほどに目を輝かせ、執拗に局部を責め苛まれます。 もちろん、低温ロウソクなどではなく、パーティ用のスパイラルの物をご使用になられます。 無毛なので、蝋涙を剥がすのは造作もない事です。 剥がしては垂らされ、剥がしては垂らされているうちに、僕のペニスの先端は感覚を失っていくどころか、ますます研ぎ澄まされていくのです。
ようやく一息つかれると、新たに支配下に参入されたビアンM女さんに、調教の様子を写メで送られているご様子。
LINEの返信をご覧になって「フフ…ムギさんのご無事を祈っています、だって…」と、お口の端を歪めながら微笑まれます。 いや、無事で済むはずはないですから…
ラブホより天井も高く空間も広い為、一本鞭も思い切り振り被る事ができます。 天井の滑車に吊られ、普段より厳しい鞭打ちを全身に受けながら、僕はM女性のように咽び泣いていました。
このホテルが放つ独特な雰囲気は、被虐心だけではなく、責める側の加虐心にも作用するのでしょうか。 鞭から解放された時、僕は床に平伏して肩で息をしていました。
めくるめく甘美な時間はあっという間に過ぎていき、いよいよご調教の締めくくりです。
男に生まれた罪深さを贖う為に、男性の象徴に108つのお灸を据えて頂くのです。 この男性器への懲罰は、言わば、僕のマゾヒズムの原点とも言えるものです。
女性を虐げてきた男達の業を一身に受けて贖罪する事が、マゾヒストとして生まれた僕に与えられた運命だと考えています。
僕は宇宙遊泳と呼ばれる拷問具に両手足を張り付けられ、無防備になった股間を晒します。
ご主人様は可憐な指先で艾を摘んでは、手慣れた様子で丸め、ワセリンを薄く塗った僕の局部に貼り付けていかれます。 10個ほど貼りつけられては次々と点火を繰り返されます。 ジリジリと皮膚を焼き焦がす瞬間は10秒ほどですが、三つ四つと連続で火をつけられるので全て燃え尽きるまで苦痛が止む事はありません。
歯を食いしばって堪えようとしても、堪え切れるものではありません。 僕が本気で泣き喚いて許しを乞うても、一旦始められたら責めの手を緩められる事はないのです。
ところが…
なんだかご主人様のご様子が少し変です。 艾の山に線香の火を淡々と移しながら、ほとんどお言葉を発しません。
見ると、とても眠そうなでご様子で、時折意識が遠のいているようです。 赤ちゃんがご飯を口に運びながら、ウツラウツラしているようなあの感じにソックリなのです。
ここのところ、配下のM男とのトラブルやプライベートでのお悩み事で相当お疲れのご様子だったので、睡魔が襲ってきたのかもしれません。
やはり無理をして部屋が空くのを待たなくて正解でした。 ご主人様は徹夜が可能な状態ではなかったのです。
ご調教に4時間程かかりましたので、深夜の3時を回った頃でしょうか。 そろそろご調教の終演が近づいてきたようです。
局部が艾の燃えカスで真っ黒になった頃、僕は解放されました。 憑き物が落ちたという表現がピッタリと当てはまるのが、この瞬間です。
お酒でも飲みながらしみじみとこの解放感に浸っていたかったのですが、ご主人様のお疲れがピークに達しているご様子なのでそうもいきません。 ご主人様にはベッドでゆっくりとお休み頂いて、僕は床で寝かせて頂く事になりました。
棒の両端に枷がついた拘束具に四肢を拘束され、自由に身動きできずに冷たく硬い床に寝るのは結構辛かったですが、奴隷にはもっとも相応しい気がしました。
ご主人様は「環境が変わると寝つけない気がする。 明日の朝は物凄く不機嫌な私を見られるかも…」と脅されます。 僕も、素でご機嫌斜めのご主人様は拝見したくありません(>_<)
ところが、照明を落とすと、まもなくご主人様は眠りにつかれたようでした。 やはり相当にお疲れなのでしょう。 微かな寝息が聞こえてきます。
僕の方は興奮して中々寝つく事ができません。
それに僕はイビキが酷いので、ご主人様の安眠を妨げるのではないかと気が気ではありませんでした。 睡眠中でも浅い意識の時は、自分のイビキが自覚できるほどなのです。 僕は拘束された状態で音を立てないように、忍び足で玄関のたたきへと移動しました。
そこならご主人様を起こす事もなく、安心して寝られると思ったのですが、今度はホテルの従業員の話し声が耳について眠れません。 うつらうつらしては目を覚ます状態を繰り返していた時、ご主人様からお声をかけられました。
「ムギー、どこー?」
僕は、再びお部屋の方へと戻りました。
たたきでは大の字になる事も出来ませんし、どうせ朝まで眠れないならご主人様のお側にいたかったのです。 ところが、今度は僕の方も床に横になるとすぐに眠りに落ちてしまい、そのまま朝まで目を覚ます事はありませんでした。
気がつくと午前9時を回ったところでした。
そろそろ帰り支度を始めなければなりません。 程なくお目覚めになられたご主人様は、特にご機嫌が悪そうなご様子もなく普段通りでした。 お化粧を落としても全く変わらない大きな眼を眠そうに瞬いているのがお可愛らしい。
アルファインでの一夜は、僕にとってかけがえのない思い出になりました。
当日はご主人様のお腹の具合も悪く、お見えになってすぐに排便はトイレで済まされていましたので、終日便器願望も、檻で一夜を明かす願望も叶いませんでした。 しかし、これほどまで長い時間ご主人様とご一緒する事ができて、お側で眠ることが出来たのはとても幸せでした。
当初思い描いていたヤプーズマーケットのような厳しい監禁調教のようにはなりませんでしたが、いずれまたチャンスも巡ってくる事でしょう。
就寝前に後片づけを済ませていたので、ご主人様が身支度を終えられると速やかにチェックアウトする事が出来ました。
仄暗い異空間を出ると、外は爽やかな朝でした。
oh, what a beautiful morning‼︎
かつて、理想の女王様を探し求めて彷徨っていた頃は、プレイを終えて帰る道すがら、現実に引き戻され、なんとも言えぬ空虚感に襲われたものですが、ご主人様の奴隷にして頂いてからはそれがなくなりました。
人通りのない静かな通りをご主人様とご一緒に歩きながら、僕は奴隷の幸せを噛み締めていました。
6月17日、久しぶりに六本木のSMホテル・アルファインに行ってきました。
ご主人様と最初に店外でお会いした時以来ですから、かれこれ四年ぶり位でしょうか。
六本木界隈にSMクラブ華やかなりし頃は、ホテル内に設置されたセキュリティーゆるゆるのレンタルロッカーまで借りて、最低でも月に2回は通っていましたが、5年間のブランク以降は全く足を運ばなくなっていました。
それでも僕はこのホテルの持つ圧倒的なB級感と、滑稽なまでにおどろおどろしい非日常感が大好きなのです。
国際色豊かな大都市の裏通りにひっそりと建つ、悪趣味な建物のアンバランスさは、SMの背徳感を増幅させてくれる。
健全でオシャレなファッションホテルも悪くはないけれど、やはりSMには退廃的なムードが似つかわしい。
初めてこのホテルの存在を知ったのは、小学 生の頃に親の目を盗んで観た、お色気番組のイレブンPMだったように記憶しています。 そう考えると、この魔窟のような建築物は、そろそろ築50年位にはなるのでしょうか? その強烈なインパクトは美芸会の存在と共に僕のマゾヒズムに多大な影響を与えてくれました。
7月は耐震補強工事の為に1ヶ月間休業したようですが、外観も設備も自然な感じで寂れてきていて、返ってリアルにダンジョンや拷問部屋の雰囲気を醸し出しています。
僕が初めてアルファインを利用したのは、当時六本木に開店したばかりのRというSMクラブのオーナーの指示でした。 ここはのちに老舗に成長した有名店ですが、当時のオーナーだった中年男性は、とにかく胡散臭い人物でした。
彼が某SM誌の読者欄に「この度“女王様の会”を発足させたので、奴隷を志願するM男性を募集します」というようなメッセージを載せて、僕はそれに応募したのでした。 早速返ってきた返信には、「奴隷としての適性があるかどうか、当会と提携しているSMクラブの女王様がたの入会審査を受けて頂きます」と書かれていました。
今思えばこの時点で気づくべきでしたが、世間知らずの若造だった僕は、女王様の個人奴隷になれるチャンスとばかり、審査代と称するプレイ料金2万円也を支払って入会を志願したのでした。
その際、審査会場に指定されたのがアルファインだったのです。
審査と言ってもその日の参加者は僕だけで、合否の結果を告げられる事もなく、その後もこの会からは一切連絡はありませんでした。 僕はオーナーが、開店したばかりのSMクラブRを軌道に乗せるために、架空の会をでっち上げて客寄せの手段に使ったのだと考えています。
この時、アルファインに派遣されてきた女王様はフィリピン人の女性でした。
片言の日本語による聞き取れない言葉責めだけでも相当萎えましたが、SMのスキルもにわか仕込みのお粗末なもので、頭数を揃えるために雇われたのが見え見えでした。
適性のない女王様に、奴隷の適性審査をされる僕って一体…(>_<)
その日、僕のマゾヒズムのスイッチはとうとう一度も入らず終いでした。
実はこのオーナーとはその後、もう一度だけ会う機会がありました。
初対面の時に、趣味で描いたFEMDOM画を5枚ほど持参して彼に見せていたのですが、その後「君の絵はマニアに売れると思うから是非サンプルを描いて欲しい」と依頼があったのです。 僕はオーナーの注文通りに、ふくよかな女性がM男性を責めているサンプル画を描いて、六本木の事務所まで持参しました。
その時、奴隷の会のその後の活動に関して尋ねてみましたが、曖昧な返事が返ってきただけでした。
僕はそれ以上問い詰めるのはやめました。
その時は確か2万円程の謝礼を貰い「絵が売れればちょっとした小遣い稼ぎになるかもしれないな…」と気を良くし、他の作品も彼に預けて帰りました。
しかし、オーナーからはその後、絵の依頼は一度もありませんでしたし、預けた画稿も返却されませんでした。
ところが、それからだいぶ経ったある時、僕は別のSMクラブの事務所で預けた絵のうちの一枚と再開する事になります。
絵は綺麗に額装されて、マンションの一室の廊下に飾られていました。
あのオーナーが、そのSMクラブのママの事を「あれは俺の女だよ」と言っていたのですが、彼女かどうかは別として、どうやら知り合いであった事だけは真実のようでした。
彼は僕が描いたFEMDOM画を、承諾も得ずに勝手にママに譲ったようでした。
アルファインでの最初の思い出はそんな苦いものでしたが、僕はこのホテルの雰囲気だけはすっかり気に入ってしまい、その後何度となく足を運んだものでした。
1人90分のコースで3人の女王様に入れ替わり立ち替わりプレイしてもらったり、一般のS女性5人を相手に3時間に渡る集団リンチまがいのプレイをしてもらったり、無茶なお金の使い方をした事もありました。
仕事を終えて夜間に利用する時は必ず宿泊しました。 プレイを終えた後、開放感に浸り、SMビデオを観ながら1人ベッドで飲む缶ビールの味は格別でした。 でも翌朝、非日常的空間を後にして、通勤の人々の群れとすれ違う事で、途端に詫びしい現実に引き戻されました。
アルファインは僕を初め、SMを愛する人達の心のオアシスだと思います。
さて、話がだいぶ脱線してしまいましたが、話題を6月17日の件に戻します。
その日、僕は、ご主人様に初めてオールナイトでご調教をして頂く為に、四年ぶりのアルファインを訪れたのでした。
薄暗い拷問部屋で、逆さ吊りにされて、意識が遠のくまで一本鞭で打ちすえられたい。 奴隷の餌や飲み水として、ご主人様の排泄物を全て賜りたい。 厳しいご調教を受けた後、檻の中に繋がれて、痛みに疼く自らの身体を抱きしめながら一夜を明かしたい。
そして何よりも、ご主人様のお側で、一晩同じ時を過ごしたい。
僕はご主人様の元で、奴隷として飼われるという、非日常体験を味わってみたかったのです。
そんな長年の夢が叶うのは、もしかしたら、この日が最初で最後のチャンスになるかもしれない。
僕はご主人様のご都合に合わせて仕事のスケジュールを調整し、体調を万全に整えてその日に臨みました。
アルファインは価格帯によって部屋の広さや設備の充実度が全く違います。
AランクからCランクまで分けるとしたら、Cランクは完全にビギナー向けで、一般のラブホとさして変わらない広さの室内に、簡素な拘束具が設置してあるだけです。 僕はこれまでAランクの部屋が塞がっていて、やむなくBランクの部屋を利用した事はありましたが、Cランクの部屋には一度も入った事がありませんでした。 わざわざアルファインまで赴くのならば、高額を支払ってでも広くて充実したAランクの部屋を利用したい。
ところが…
当日は土曜日だった事もあってか、僕が到着した21時過ぎにはすでに、檻のある部屋もAランクの部屋も全て塞がっていました。
宿泊のチェックインは22時からで、部屋を選べるのは21時45分頃からですが、その時点で空いていたBランクの部屋も残すところあと僅かだったのです。
受け付けの女性によると、その夜、Aランクの部屋に休憩で入ったカップルは2組。 ただし1組は入ったばかりで、もう1組も延長を繰り返していて、いつ退室するかは全く予想がつかないという事でした。
他のAランクの客は休憩で入った後、宿泊に切り替えたのでしょうか? お金持ちには敵いません(>_<)
僕はAランクの部屋の宿泊料金として、一泊35,000円の予算を用意していました。
広い部屋が空くのを待つか、それとも現状で一番いい部屋に入った方がいいのか… そうこう悩んでいるうちにも次々と変態カップル達が訪れます。 僕は追い立てられるように、Bランクの「奴隷市場」と言う部屋に入る事にしました。
この時、ご主人様はまだお友達と新宿でお食事中でした。
部屋に入ってからご主人様に連絡して事の経緯を伝えると、「せっかくムギの願望を叶える為の特別な日なのだから、広いお部屋が空くまで待ってみたら?」と仰います。
「私は朝まで寝ないで始発で帰るのでも大丈夫だから…」と優しいお心遣い。 ご主人様は当初、ご自分は寝起きが悪いので、調教は夜中のうちに全て終わらせてしまって、朝はゆっくり寝ていたいと仰っていたのです。
檻の中で寝るのが無理だとしても、せめてご主人様がお休みになられているベッドの下で拘束されて眠りたいというのが僕の願望でした。 しかし、一睡もされないでご帰宅されるとなると、昼間のご調教を深夜の時間帯にずらしただけという事になってしまいます。
どうしよう…ここはキャンセル料を支払ってでも部屋が空くのを待つべきか…
それともこの部屋で3時頃までご調教して頂いて、あとはチェックアウトまでごゆっくりとお休み頂くか…
かように悩むほど、AランクとBランクの部屋では大きな差があるのです。
一応受付に相談してみたところ、たとえ深夜まで待ってもいい結果に結びつくとは限らないと言われました。 確かにその通りです。 下手をすればもっとグレードの低い部屋になってしまう可能性さえあるのです。
僕は自分のツキの無さを呪いながら、Aランクの部屋を断念しました。
そうと決まれば気持ちを切り替えて、この部屋でご調教に集中する以外ありません。 どうでもいいような事に思えるかもしれませんが、マゾヒストは自己の妄想や願望に執拗なこだわりを見せる事があるのです。
この日、僕は、二間あるAランクの広い空間で、首輪を付けて引き回されたり、馬にされたり、檻の中で眠る事を夢想していたのです。 残念ながらその夢は潰えました。
午後10時半を回った頃、ご主人様がお出ましになられました。 凶々しい拷問部屋には似つかわしくない、ご主人様の清楚な美貌に加え、今夜は匂い立つような色香が特段映えてさらに眩く光り輝いて見えます。
ご主人様と出会って7年目を迎えましたが、考えてみれば、夜にご調教を受けさせて頂くのは初めての事でした。 いつもと違った印象を受けたのは、そのせいかもしれません。
いつだったか、ご主人様が 「ムギは私に地獄へ連れて行かれるのが大好きだよね」 と仰っていた事を思い出します。 そう、今宵、僕は死神ではなく、目の前の天使に地獄へといざなわれていくのです。
跪いてご挨拶を終えると、ご主人様のお手によって畜奴に相応しい姿へと堕として頂きます。 先端に尻尾の付いたアナルプラグをねじ込んで頂くだけで、僕のマゾヒズムのスイッチは全開となり、呼吸は荒く、目は虚ろになります。
その後、変形椅子に開脚状態で拘束され、1年半ぶりの剃毛をして頂きました。 ハサミで大雑把に切って頂いた後、安全カミソリで剃り上げて頂きます。
ハサミをお使いになられている際、お手元が狂われて、僕の陰嚢の皮膚を切ってしまったのはご愛嬌。 数日前に、ハサミを所持していた男性が銃刀法違反で逮捕されたというニュースを見て、刃渡り6.5センチの合法の物に買い替えたばかりなのです。切れ味も抜群だったのでしょう。 この男性は、警察官がハサミの柄から測った為の誤認逮捕だったようですが(>_<)
無毛状態になった僕の 下腹部には、かつて線香やタバコの火で刻んで頂いた、ご主人様のお名前が、はっきりと判読できる状態で残っていました。 風呂に浸かるとピンク色に浮かび上がってくるご主人様のお名前がなんとも愛おしいのです。
このお名前の焼印も久しぶりにメンテナンスを施して頂きました。火先が肌に触れる度に口から呻き声が漏れてしまいます。
少し時間が経つとご主人様のお名前の形にみるみると火脹れていきました。
ご主人様以外の女王様とプレイをしていた頃は、傷痕が残ると一刻も早く消えて欲しいと思ったものですが、今はもっともっと身体にご主人様の奴隷の証しが欲しいという願望がもたげてきます。
儀式が終わると、念願だった逆さ吊りに寄る鞭打ちや蝋燭責めが執り行われます。
蝋燭の炎の揺らめきが、ご主人様の慈愛に満ちた優しいお顔を歪め、妖しい魅力を惹き出してくれます。 照明を最大限にしてもなお仄暗い室内には、何か魔物が宿っているのかもしれません。
ご主人様は奴隷が苦しむほどに目を輝かせ、執拗に局部を責め苛まれます。 もちろん、低温ロウソクなどではなく、パーティ用のスパイラルの物をご使用になられます。 無毛なので、蝋涙を剥がすのは造作もない事です。 剥がしては垂らされ、剥がしては垂らされているうちに、僕のペニスの先端は感覚を失っていくどころか、ますます研ぎ澄まされていくのです。
ようやく一息つかれると、新たに支配下に参入されたビアンM女さんに、調教の様子を写メで送られているご様子。
LINEの返信をご覧になって「フフ…ムギさんのご無事を祈っています、だって…」と、お口の端を歪めながら微笑まれます。 いや、無事で済むはずはないですから…
ラブホより天井も高く空間も広い為、一本鞭も思い切り振り被る事ができます。 天井の滑車に吊られ、普段より厳しい鞭打ちを全身に受けながら、僕はM女性のように咽び泣いていました。
このホテルが放つ独特な雰囲気は、被虐心だけではなく、責める側の加虐心にも作用するのでしょうか。 鞭から解放された時、僕は床に平伏して肩で息をしていました。
めくるめく甘美な時間はあっという間に過ぎていき、いよいよご調教の締めくくりです。
男に生まれた罪深さを贖う為に、男性の象徴に108つのお灸を据えて頂くのです。 この男性器への懲罰は、言わば、僕のマゾヒズムの原点とも言えるものです。
女性を虐げてきた男達の業を一身に受けて贖罪する事が、マゾヒストとして生まれた僕に与えられた運命だと考えています。
僕は宇宙遊泳と呼ばれる拷問具に両手足を張り付けられ、無防備になった股間を晒します。
ご主人様は可憐な指先で艾を摘んでは、手慣れた様子で丸め、ワセリンを薄く塗った僕の局部に貼り付けていかれます。 10個ほど貼りつけられては次々と点火を繰り返されます。 ジリジリと皮膚を焼き焦がす瞬間は10秒ほどですが、三つ四つと連続で火をつけられるので全て燃え尽きるまで苦痛が止む事はありません。
歯を食いしばって堪えようとしても、堪え切れるものではありません。 僕が本気で泣き喚いて許しを乞うても、一旦始められたら責めの手を緩められる事はないのです。
ところが…
なんだかご主人様のご様子が少し変です。 艾の山に線香の火を淡々と移しながら、ほとんどお言葉を発しません。
見ると、とても眠そうなでご様子で、時折意識が遠のいているようです。 赤ちゃんがご飯を口に運びながら、ウツラウツラしているようなあの感じにソックリなのです。
ここのところ、配下のM男とのトラブルやプライベートでのお悩み事で相当お疲れのご様子だったので、睡魔が襲ってきたのかもしれません。
やはり無理をして部屋が空くのを待たなくて正解でした。 ご主人様は徹夜が可能な状態ではなかったのです。
ご調教に4時間程かかりましたので、深夜の3時を回った頃でしょうか。 そろそろご調教の終演が近づいてきたようです。
局部が艾の燃えカスで真っ黒になった頃、僕は解放されました。 憑き物が落ちたという表現がピッタリと当てはまるのが、この瞬間です。
お酒でも飲みながらしみじみとこの解放感に浸っていたかったのですが、ご主人様のお疲れがピークに達しているご様子なのでそうもいきません。 ご主人様にはベッドでゆっくりとお休み頂いて、僕は床で寝かせて頂く事になりました。
棒の両端に枷がついた拘束具に四肢を拘束され、自由に身動きできずに冷たく硬い床に寝るのは結構辛かったですが、奴隷にはもっとも相応しい気がしました。
ご主人様は「環境が変わると寝つけない気がする。 明日の朝は物凄く不機嫌な私を見られるかも…」と脅されます。 僕も、素でご機嫌斜めのご主人様は拝見したくありません(>_<)
ところが、照明を落とすと、まもなくご主人様は眠りにつかれたようでした。 やはり相当にお疲れなのでしょう。 微かな寝息が聞こえてきます。
僕の方は興奮して中々寝つく事ができません。
それに僕はイビキが酷いので、ご主人様の安眠を妨げるのではないかと気が気ではありませんでした。 睡眠中でも浅い意識の時は、自分のイビキが自覚できるほどなのです。 僕は拘束された状態で音を立てないように、忍び足で玄関のたたきへと移動しました。
そこならご主人様を起こす事もなく、安心して寝られると思ったのですが、今度はホテルの従業員の話し声が耳について眠れません。 うつらうつらしては目を覚ます状態を繰り返していた時、ご主人様からお声をかけられました。
「ムギー、どこー?」
僕は、再びお部屋の方へと戻りました。
たたきでは大の字になる事も出来ませんし、どうせ朝まで眠れないならご主人様のお側にいたかったのです。 ところが、今度は僕の方も床に横になるとすぐに眠りに落ちてしまい、そのまま朝まで目を覚ます事はありませんでした。
気がつくと午前9時を回ったところでした。
そろそろ帰り支度を始めなければなりません。 程なくお目覚めになられたご主人様は、特にご機嫌が悪そうなご様子もなく普段通りでした。 お化粧を落としても全く変わらない大きな眼を眠そうに瞬いているのがお可愛らしい。
アルファインでの一夜は、僕にとってかけがえのない思い出になりました。
当日はご主人様のお腹の具合も悪く、お見えになってすぐに排便はトイレで済まされていましたので、終日便器願望も、檻で一夜を明かす願望も叶いませんでした。 しかし、これほどまで長い時間ご主人様とご一緒する事ができて、お側で眠ることが出来たのはとても幸せでした。
当初思い描いていたヤプーズマーケットのような厳しい監禁調教のようにはなりませんでしたが、いずれまたチャンスも巡ってくる事でしょう。
就寝前に後片づけを済ませていたので、ご主人様が身支度を終えられると速やかにチェックアウトする事が出来ました。
仄暗い異空間を出ると、外は爽やかな朝でした。
oh, what a beautiful morning‼︎
かつて、理想の女王様を探し求めて彷徨っていた頃は、プレイを終えて帰る道すがら、現実に引き戻され、なんとも言えぬ空虚感に襲われたものですが、ご主人様の奴隷にして頂いてからはそれがなくなりました。
人通りのない静かな通りをご主人様とご一緒に歩きながら、僕は奴隷の幸せを噛み締めていました。